本の橋渡し

本の感想を書くブログです。 (たまに映画、美術、音楽についても書ければ良いなと思っております。)

「村の為にならない人間は削除されていく」縄文時代、現代社会、そしてコンビニは同じ構図?━━『コンビニ人間』村田沙耶香(著)

※本ページはプロモーションが含まれています

この本について

2016年7月発行の村田沙耶香さんによる小説です。

第155回(2016年)芥川龍之介賞を受賞しています。

私は村田さんについては何の情報も知らずに読んだ(Audibleで聴いた)のですが、
この小説の冒頭の部分を聴いてまず思ったのが、
「村田さんは、実際にコンビニで働いたことがあるのでは?」
ということでした。

なぜなら、主人公の古倉恵子がコンビニで働いている時に、客が立てるペットボトルを棚から取る音・小銭の音、客の目線に素早く反応して、自然に身体が動いている様子がリアルに描かれているからです。

そこで、ネットで調べてみたところ、やはり村田さんはコンビニで働いたことがあるようです。ご自身の芥川賞受賞記者会見当日も「今日も(コンビニで)働いてきました」とおっしゃっていたようです。

私自身はコンビニで働いたことはありませんが、コンビニの店員さんて本当に凄いと思いませんか?
レジ打ち、品出し、発注、レジ打ち、接客、クレーム対応、郵便物の郵送、チケットの発行、清掃etc.
超オールマイティーじゃないですか!
コンビニ店員として働きながらの執筆、そして受賞までしてしまうなんて、村田さん、おそるべし。

 

 

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一見似ているようで対照的、主人公の恵子と白羽という男

この物語の主人公は、36歳未婚で同じコンビニでバイトとして働き続けて18年になる古倉恵子という女性です。

そして、この物語のキーパーソンとなるのが、恵子が働くコンビニに新入りバイトとして入ってきた白羽という30代の男性

白羽は初日から勤務態度も悪く、「みんな底辺ばっかりだ」、と自らもコンビニ店員として働いているのにもかかわらず、コンビニ店員を馬鹿にしたような発言ばかりします。

架空上の人物と分かっていても、読んでいると、この白羽という人物には私もかなりイライラさせられました(笑)

しかし、そんな白羽の口から発せられる言葉の中には「確かに」と納得してしまうものもありました。

例えば、白羽はよくボヤく時に「縄文時代」というワードを使います。

「この世界は、縄文時代と変わってないんですよ。村の為にならない人間は削除されていく。狩りをしない男に、子供を産まない女。現代社会だ、個人主義だと言いながら、村に所属しようとしない人間は、干渉され、無理強いされ、最終的には村から追放されるんだ。」

『コンビニ人間』村田沙耶香(著)文藝春秋 Audible 2:06:50~

主人公・恵子本人は、自分がコンビニの店員として働くことに何も問題を感じていませんし、むしろ、コンビニ店員として働いている時がいちばん生き生きとしています。

それなのに、自分自身は正常だと思っている親、妹、友達や友達の夫などは、「そろそろ結婚しないとヤバい」「正社員にならないとまずい」「一緒にカウンセリングに行こう」などと、恵子の"正常じゃない"と思われる部分を矯正しようとします。

私はその様子を読んで、これが白羽の言う「現代社会の皮を被った縄文時代」か、と妙に納得してしまいました。

人間は、理解不能な人や事はそのまま受け入れることはできず、矯正したり、曲解したりして、自分が理解可能な範囲に無理やり収めるようとする。そして、それが出来なければ、自分の世界から追い出そうとするのだなと思いました。

白羽の言動にイライラした私も含めてそうなのかも知れません。

 

30代、未婚、コンビニアルバイト、と共通点が多い恵子と白羽ですが、私はこの二人から全く違う印象を受けました。

恵子は、コンビニ店員として働いていると皆から怪訝な顔をされ、根掘り葉掘り聞かれるのは迷惑で鬱陶しいと感じてはいますが、自分を"ダメ"だとは思ってはいません。なので怒りという感情は殆どありません。

一方で白羽は、皆から自分の人生を干渉されていると感じて、苦しんでいます。しかし、その一番の原因は、白羽自身が自分の生き方を受け入れる事ができていないからなのでは?と思いました。コンビニ店員を「底辺」と見下した言葉がそのまま自分に返ってきて、不満がたまり、周りに当たり散らす。そして、その時に吐いた暴言がまた無意識のうちに自分に返ってくる、、、

ラストの場面は、そんな二人の対照的な部分を表しているのではないかと思いました。

オーディオブックAudibleのナレーターは大久保佳代子さん

今回も私はAudibleで聴いたのですが、ナレーターはお笑いタレントの大久保佳代子さんでした。

私は素朴な感じが、主人公によく合っていて、とても良いなと感じました!

もちろん、普段聴いているプロの声優さんたちの声の演じ分けは素晴らしいのですが、それが故に登場人物の印象が、その声にかなり引っ張られることもあります。

大久保さんのナレーションにはそれがなく、聴く側の想像力が掻き立てられると思いました!

おわりに

私が、これまでに読んだことのある芥川賞受賞作品は、

  • 『乳と卵』川上未映子(著)
  • 『火花』又吉直樹(著)
  • 『スクラップ・アンド・ビルド』羽田 圭介(著)
  • 『推し、燃ゆ』宇佐見りん(著)

そして今回の『コンビニ人間』の全5作しかありませんが、どの作品も引き込まれるように一気に読んだ記憶があります。

なので、もしかすると芥川賞に選ばれるような作風が自分の好みなのかもしれません。
ですので、これから積極的に芥川賞受賞作品を読んで、とっておきの一冊を見つけたいと思います!

 

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