本の橋渡し

本の感想を書くブログです。 (たまに映画、美術、音楽についても書ければ良いなと思っております。)

自分はどのように働きたいのか、考えるきっかけに━━『死ぬまで、働く。』(本)池田きぬ(著)

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この本について

2021年11月初版発行の池田きぬさんによるエッセイです。
この本を読んだ(聴いた)きっかけは、『死ぬまで、働く。』というタイトルが、最近至るところで聞くFIRE(Financial Independence,Retire Early 経済的自立と早期退職)の逆をいっていると思い興味を持ったからです。

著者の池田さんは、1924年(大正13年)生まれで、19歳から看護の世界で働き、当書執筆時も97歳現役看護師として働いています。

池田さんは、23歳でお見合いで結婚し、退職して一度家庭に入りました。しかし、長男を出産した後、生活のために保健婦として再び働き始めました。昭和2、30年代は女性が働く時代ではなかったので、義母に子供を任せて働いていることに対して、周囲から色々と陰口を言われていたようですが、忙しすぎて陰口を聞いている余裕もなかったそうです。

定年退職後も、訪問看護やグループホームの立ち上げに関わり、看護の世界で働いていました。

75歳で、三重県最高齢でケアマネージャー試験に合格。
88歳の時に、池田さんが生まれた家の近くのサービス付き高齢者向け住宅「いちしの里」に看護師として採用され、それから当書執筆時までずっと働き続けています。

93歳の時には、当時75歳以上に顕彰されていた(現在は80歳以上、35歳以下)「山上の光賞」を受賞しました。

下記サイトによると、池田さんはご自身の体力に限界を感じ、周りに迷惑をかけないようにと2023年12月には仕事を辞めているようです。
この本の中でも、「足手まといになったら、やめる覚悟でいます」と仰っていました。
2024年1月、一人暮らしをしているご自宅で、元気に短歌の勉強をされている様子が取材されています。

newsdig.tbs.co.jp

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多様な世代のスタッフがお互いを支え合いながら働く

執筆当時に池田さんが働いていた、サ高住「いちしの里」では、企業主導型保育園が併設されているので、シニアから、こどものいるお母さんなど、様々な世代の人が働いています。

池田さんを含め、高齢のスタッフは、子育て世代のスタッフが出勤しにくい土日や夜などに率先してシフトに入り、若い年代の人が働きやすいような雰囲気を作るように心がけていたようです。

「仕事も家庭もバランス良く」という働き方は池田さんが子育てをしている時代にはなかったようですが、その働き方に対し、池田さんは「とてもよろしい事ですね」とおっしゃっています。

「私たちの頃は、子供がいても夜まで働いていたんだから!」などと自分が過去に苦労したことを今の子育て世代に強要せず、率先してサポートにまわっているのが素敵だなと思いました。

色々な立場を経験し、子育てしながら働く苦労も、責任者としてシフトを作る大変さも知っている池田さんだからこそ気持ちよくサポートにまわれるのだと思います。

逆に若い世代は、利用者さんの車の送迎や、力仕事、ITを使った仕事などを担っているそうです。

「いちしの里」では、それぞれのスタッフが得意な事や、働きたい時間が異なることで、お互いを上手く支え合う事が出来ています。

しかし、様々な世代や価値観の人が働く職場の雰囲気は、そこで働く人々の心持や経営の仕方次第で良い方にも悪い方にも転びやすいのではないかと思います。

「世代」「仕事の進め方・ペース」「働ける時間」「優先したいこと」などが違う人々が同じ職場で働くという事は、その分摩擦が生じることも多いという事です。

最近、ニュースなどで、「老害」「子持ち様」「子無し様」などの言葉を用いて、自分とは異なる立場や世代の人を揶揄するSNSの投稿がクローズアップされることが増えていますが、それだけ、職場に対して不満を持っている人がいるという事でしょう。

SNS上で自分とは異なる立場や世代の人をそのような言葉で揶揄すると、一時的には鬱憤が晴れたり、お互いの敵対心を煽ることはできるかも知れませんが、実際の職場でのストレスがなくなることはありません。

しかし、その人が職場でストレスを感じているという事は紛れもない事実であり、ストレス源に対してストレスを感じてしまう事自体は何も悪くありません。そのストレスをどの様に解消していくかが肝心なのだと思います。

これはあくまでも私の想像でしかないのですが、SNSでそのような投稿をする人はもしかしたら、実際の職場では、「頼まれたことを断れない」「上手く周囲に助けを求められない」人なのかも知れません。

私自身も頼まれたことを断ったり、周囲に助けを求めたりするのは、かなり苦手なタイプだと思います。「断ったら、後で気まずいかな、、、」「人にお願いするのも面倒だから、自分一人でやった方が楽かな、、、」などと思ってしまいます。

ですが、結局後で自分のキャパシティを超えてしまい、余裕がなくなり、イライラしてしまう事が多いです。

「いちしの里」のように、スタッフ同士が気持ち良く働く為に大事なのは、

  • 周囲に助けを求める力
  • 断る力
  • (助けたことに対して)見返りを求めない事

だと思います。

池田さんは、自分の体力に合わせて、働く日数を調整してもらい、無理のない範囲で働いていました。一方で、自ら率先して人が少ない時間のシフトに入り、そのことに対して見返りを求めていませんでした。
だからこそ、池田さんが困っていたら、周囲の人は自然と助けたくなるのではないかと思います。

自分が得意な事や余裕があるときは、率先して助ける。また、誰かに助けを求められても、自分自身に余裕がない時や譲れない大事な事に時間を割きたい時は、上手く断る。

そして、「断られる」ことに慣れるのも大事かなと思います。周囲に助けを求める事にに躊躇しなくても良いですが、その依頼が断られても「私はあの時助けてあげたのに、どうして助けてくれないんだ!」と恩着せがましくならずに、「ご検討くださりありがとうございました」で終わらせられれば、良いかなと思います。
そもそも誰かが無理をしないと回らないのは、経営側の問題でもありますので、全てがスタッフの問題というわけではありません。

シニアが働くことの意義

あなたは、シニアになっても働くことについてどう思いますか?
シニアで働くなんて可哀想?それとも、アクティブシニアでかっこいいと思いますか?

経年調査から見る働くシニア就業者の変化 - パーソル総合研究所によると、2022年では、60~64歳の73.0%、65~69歳の50.8%が働いているそうです。

高齢になっても働く理由として、「生活の為の収入が欲しいから」という理由をまず最初に思いつきましたが、1 就業・所得|令和4年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府によると、「家計にゆとりがあり、まったく心配なく暮らしている」と「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」と感じている65歳以上の人の計が68.5%となっています。

という事は、全ての高齢者が「収入の為に必要に迫られて」働いているというわけではなさそうです。

ネット上で、「高齢者 働き続ける理由」で検索すると、サイトによって順位に若干の違いはありますが、上位にあるのが「生活資金のため」「健康維持のため」「社会と繋がっていたいから」「やりがいを感じたいから」などがあります。

池田さんはどうかと言うと、この本の中で

  • 年金をもらっているので、贅沢しなければ働かなくても暮らしていける
  • 労働してお給料をもらえるのは単純にうれしい(池田さんは年齢関係なしに皆さんと同じ給料をもらっていたそうです)
  • 健康で働けた!という充実感は何ものにも代え難い
  • 仕事をしないで家にいると、自分一人取り残されているような感じがした

と仰っているので、「生活資金のため」というよりは「健康維持のため」「社会と繋がっていたいから」「やりがいを感じたいから」という理由で働いていたのではないでしょうか?

池田さんは高齢になってからも働くことをポジティブに捉えているので、生き生きとしてカッコよく見えるのだと思います。

池田さんのように、高齢になってからも働くことをポジティブに捉えるには、ある程度の金銭的・体力的・時間的余裕が必要なのかも知れません。

肝心なのは、自分が本当に望む人生設計を立て、実現してゆく事

全ての人が高齢になっても働いた方が良いと推奨しているわけではなく、肝心なのは自分が本当に望む人生設計を立て、実現してゆく事だと思います。

池田さんのようにシニアになっても働きたい人、FIREしたい人、一般的な退職年齢の60歳で退職したい人など、現代は人生設計も千差万別です。

自分が望む人生設計を実現するために、まずは、世間体や周りの目を抜きにして、自分が本当に心地よいと感じるのはどんな時なのかを知ることから始めていきたいです。そして、心地よいと感じられる時間を徐々に増やせるように、今からお金・体力・時間のバランスを取っていきたいと思います。

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